声を聞くたび、好きになる


 声優の花崎華さんかと思ったけど、違う。

 流星の隣に居るのは、私の知らない女性だった。

 人に言ったら重度のオタクだなと笑われそうだけど、私は声優さんの声と顔をだいたい記憶している。脳内リストの中身と女性の姿は合致しなかったから、彼女は声優じゃない可能性が高い。

 女性は、しなやかな動きで流星の腕に自分の腕を絡めさせ、甘えた瞳で彼を見上げている。

「やめろって」

 優しくも強い語気で彼女をたしなめる流星の声。

 久しぶりに聞く彼の声は、よく知るはずのものなのに全く聞いたことのない声に聞こえた。

 二人は、付き合ってるんだ……。

 流星が私に好きって言ったのは、何らかの気の迷いだったんだ。危うく信じかけていた。


 二人に見つからないよう、私は素早くその場を後にする。何も買わずに店を出た。

 流星との思い出の場所が、
 二人で共有してたはずのものが、
 いっきに色あせてゆく……。


 流星にサヨナラを告げられた時以上に、胸が痛い。じくんじくんと悲しい現実を刻みつけられる。

 こんな場所で、泣いたらいけない。

 なのに私は、涙を抑えられなかった。流星が他の女性に触れられていた。それがこんなにつらいなんて。

 歩く気力を失った私は歩道に座り込み、ひきつるように声を殺して泣いた。わんわん泣けたら楽なのに。

 モモと飲んだお酒がまだ体内に残っているのだろうか、道行く人達が私に向ける無遠慮な視線や露骨な笑い声がどうでも良くなっている。

 流星のいない人生なら、このままどうなってもかまわない。消えてしまいたい。私なんて、要らないんだ……。


 泣きながらフラフラ立ち上がり、嗚咽(おえつ)がおさまるなり近くのコンビニに入った。

 乱暴な手つきで店内カゴの取っ手をつかむと、これまで興味のなかったアルコール缶を適当に詰め込みレジに向かう。

 泣いたせいでメイクも崩れ、ひどい顔をしていたのだろう。

 私を見るなり、店員さんは年齢確認をしたいと言ってきたが、無言のまま財布から一万円札を取り出す私を見て、もう何も言ってこなかった。まともに相手をしたら面倒くさいことになるとでも思ったんだろう。


 コンビニを出て早々、私は歩きながらカクテル缶をひとつ開けた。

 真っ昼間からお酒なんて、やさぐれたオジサンがすることだと思ってたけど若い女もやりますよーなんて思いながら、飲み口に口をつける。

 炭酸の果汁カクテルか。モモと飲んだお酒の方が美味しかったな。