声を聞くたび、好きになる


 仕事で必要になりそうな画材はあらかた買った。

 次は、資料集めのために本屋を見て回ろう。より詳しい資料を集めるには、品数豊富な大型書店を中心に回った方がいいかもしれない。

 なんか、こういうの、いいな。……目的地までの道のりを歩きながら、嬉しく思う。

 自分のためだけじゃなく、仕事のためにお金や労力を使うって、悪くない。好きな仕事に就けたからこう思うのかもしれない。

 ……流星も、声優になりたての頃はこうだったのかな。

 夢が叶って自分の声が世の中に流れた時、幸せ気分で満ちていたのかな。

 私に仕事の話をする時、流星の目はいつも輝いていた。

 私には理解できない感情だと思い、当時は流星のことを遠い人に思うこともあったけど、今の私なら心から共感を示せるかもしれない。

 タイミングが、違ったね――。


 今、むしょうに流星と会いたくなった。

 別れたことなんて忘れたフリして、会いに行ってしまおうか。昔みたいに、幼なじみの妹を演じながら。

 だって私、イラストレーターになれたこと、モモより先に流星に報告したかった。誰よりも先に、流星に知ってほしかった。

 今の流星を知らないことが寂しいし、自分の現状を語れないのもむなしい。


 流星以外の男性を見るってモモと約束したばかりなのに、さっそくこれか。ダメだね……。


 気が付くと、私は馴染みの書店に足を運んでいた。時々、流星と行っていた店だ。

 外出と人の視線が苦手な私でも、本屋だけは安心して行くことができた。客は皆、本選びや立ち読みに意識を集中させているし、何より、本屋は流星とデートできる唯一の場所だったから。

 文具や景品クジ、パズルといった小物も充実した広い店内には、新しい書物独特のインクの匂いが漂っている。

 そんな空気に胸を弾ませ、店内を練り歩く。

 流星、いないかな。運命的にバッタリ会えたりしないかな。


 …――ウソ。


 実際にその願いが叶ってしまうと、私は情けなくも後ずさってしまった。

 男性向けコミックコーナーに、流星の後ろ姿を見つけてしまったから。

 期待はしたし、会いたいと願ってはみたけど、本当に居るとは思わなかった。

 喜びたいのに、喜べない。

 流星は、私の知らない女性と一緒にいた。