声を聞くたび、好きになる


 社会人って、みんなこういう風なのかな?

 働くってしんどいことばかりだと思ってたけど、いざこうして仕事をする立場になってみると、意外と楽しんでいる自分がいた。

 まだ駆け出しのクセにこんなにやる気に満ちているのは、芹澤さんのおかげ。あの人が親切丁寧に接してくれたから、こうして前向きでいられる。厳しかったり意地の悪い編集さんだったら、私は即行逃げ出していただろう。


 結局、私達は日付が変わるまで飲み続け、翌朝の太陽が見える時間になってようやく、家に帰った。

 モモはシャワーを浴びに帰ったらすぐ学校に向かうと言う。

「ごちそうさま。ありがとう」
「また飲もうね~。バイバーイ」

 帰宅したらすぐに眠るつもりだったけど、モモを見習い、私もそのまま起きていることにした。


 家にいると、今までのクセでダラダラしてしまいそうだから。

 シャワーで目を覚ますと、久しぶりに気合いを入れてメイクをし、新しい服に着替えた。

 仕事に必要な画材や資料を買いに行こう!支出の少ない生活をしていたので、オークション貯金がけっこう貯まっている。

「いい物あるといいな~っ」

 つい、独り言が口から漏(も)れる。寝てないせいか、妙に明るい気持ちだしテンションも上がる。


 パソコンソフトを使ってイラストを描くのは楽しいし手描きより効率が良い。でも、私は、コピックや油性絵の具といった画材を使い自分の手でイラストの着色作業をするのが好きだ。

 オークションサイトには私以外の人もイラストを出品していて、そのほとんどがパソコンで描かれた綺麗なイラストだった。

 そんな中、ほとんどの着色を手作業した私のイラストは人気があった。ありがたいことだったし、プロとして仕事をすることになった今、オークションでの人気が自信の源になっている。

 今回依頼を受けた恋愛系アニメ映画のキャラクター原案。それを描く時も、これまで以上に創意工夫してみよう。

 でも、これは趣味じゃなく仕事だし、他の人の意見も取り入れながら作業した方がいいかな?芹澤さんなら、何て言うだろう?帰ったら相談してみようかな。