声を聞くたび、好きになる


 こんなこと言ったら嫌われる?

 理性の片隅でそう思っている私とは逆に、モモはこの雰囲気を楽しんでいるようだった。学校の友達とよく飲みに行っているって言ってたし、酔った人の相手にも慣れているのかもしれない。

「流星さんのこと忘れるのは無理でも、いったんそれは脇に置いといて他の人も見てみたら?例えば、芹澤さんとか」
「芹澤さん……?」

 意識はしっかりしてるはずなのに、現実感がなく頭がふわふわしている。アルコールはまるで変な薬みたいだ。普段なら反抗するような言葉でもすんなり受け入れてしまう。

「芹澤さんは流星さんより大人だから最初は変な感じがするかもしれないけど、流星さんと芹澤さんを比べることで、ミユの気持ちもまた変わってくるんじゃない?流星さん以外の人を知らないから流星さんに執着してるだけかもしれないし」
「執着、か……。そうかもしれないね。私は流星以外の男の人を知らないし」
「だよね?だったら、こうして流星さん離れしている間に、できる限り色んな男を見るべきだよ。そしたら、何か変わるかも!」

 そうだね。モモの言うことは正しい。

 昔からずっと、私は流星のことしか見ていなかった。同学年で人気のある男子の爽やかな笑顔や、テレビに出てる男性アイドルグループのきらびやかさなどには目もくれずに。

「まあ、いきなり色んな男を見るっていうのも大変だから、まずは身近な芹澤さんで!」
「身近でもないけどね。知り合ったばかりだし、仕事の関係でしかないし。でも、芹澤さんのこと、よく見てみるよ」
「っていうか、ミユから見た芹澤さんってどうなの!?淡々と芹澤さんのことしゃべってるけど、もしかしてタイプじゃない??私はイケメンだと思うし、もしあの人に付き合ってって言われたら舞い上がるレベル」

 専門学校の女の子達も同意見だとモモは強調する。じゃっかん押され気味になりつつ、私は言った。

「かっこいい人だと思うよ。洗練された雰囲気で清潔感もあるし、若いのに大人の落ち着きがあって。なのにミルクティー好きという可愛い属性がギャップを感じさせるよね」
「そうなの!?芹澤さん、私の学校に来てた時コーヒー飲んでたよ!?」
「本当に?」
「学生の頃から、紅茶はほとんど飲んだことないって言ってた。それに、甘い物は苦手らしいよ?」
「そのわりに、砂糖入りのミルクティーゴクゴク飲んでたよ。ホットの」

 あんなに勢いよく熱い物を飲んでよく平気な顔してたな、芹澤さん。今さらだけど、ヤケドしなかったかな?じゃなくて……。

 何で、甘いの苦手って言ってくれなかったんだろう?

「言ってくれればコーヒー出したのに……。芹澤さん、私には言いたいこと言えって言ったクセに、どうして?あ、私が勝手に紅茶淹れちゃったからだ。何が好きか、淹れる前にちゃんと訊くべきだったね、反省」
「芹澤さん、優しいね。ミユに特別な感情持ってる証拠だよ」

 モモは得意気な顔をした。

「ミユの淹れてくれる物なら文句言わず何だって飲みますって所を見せたかったんじゃない?」
「そうかなぁ?分からないよ。男の人って、なんか難しいね」