モモによけいな心配をかけたくない。
流星との別れを認めたくない。
それらの思いは、アルコールにかき消されていた。
話すつもりのなかった流星のことを、私はモモに向かって口にしていた。
「私、ダメだね。流星に甘えてばかりだった。離れていかれるのも当然……」
全てを話し終える頃には涙がこぼれた。理性が薄れ、我慢していた気持ちが溢れ出る。
「泣かないで、ミユ……」
モモはテーブル脇のペーパーナプキンを数枚取りだし、私の頬を拭ってくれた。
「ミユの気持ちも分かるけど、流星さんの気持ちも分かるなぁ……」
しみじみした口調で、モモはつぶやく。
「だって、男の人は好きな女にみっともないとこ見せたくない生き物だって言うし。マンガとかアニメにもそういう話よくあるじゃん?ただでさえ流星さんは年上だし、ミユから尊敬のまなざしで見られ続けたかったんだと思うよ」
「あの……。流星が私を好きだって言ってきたこと、モモは驚かないの?」
「うん。あんまり。むしろ、やっと言ったのかーって思った」
「そうなの!?私はずっと、永遠の片想いだって思ってたよ。だから、好きって言われたこと、いまだに信じられない」
それに、私の好意は流星に届かなかった。
「流星さんもミユと同じ。お互いが両想いだなんて思ってなかったと思うよ?だからこそ、ミユの告白も受け流したんだろうし」
「だとしても、好きって気持ち信じてもらえなかったのはショック……」
「そうだね。明るそうな人だけど、流星さんって意外にひねくれてんのかな?」
――ミユは、俺のことが好きなわけじゃない。この声が好きなだけだ――。
そんなわけない!私は流星が声優になる前から彼のことを好きだったんだから!
「もう一回会って話したいけど、流星の方は私と離れたがってたから、強引に行けない。拒絶されるのがこわいから。今までしょっちゅう家に出入りするような仲だったのがウソみたいだよ……」
「幼なじみなんだもん。また、そのうち自然に話せるようになるよ」
「そうかなぁ……」
モモは楽天的なことを言うけど、私は素直にうなずけなかった。仲直りできるものならとっくに、元に戻れているはずだから……。
「離れてみて改めて気付いたんだけど、流星は毎日仕事で女の人と絡んでる。あの、花崎華さんとだって……。今頃、私のことなんか忘れて気の合う声優さんと仲良くやってるよ」
お酒が喉を流れるたび、気持ちが凶暴化していく。長年の親友を前に、隠してきた負の部分ばかりさらされていく。


