声を聞くたび、好きになる


「大丈夫。私けっこう強いから、もしミユがつぶれても対処できる」
「ありがとう。もしもの時はよろしくね」

 頼もしく言い切るモモに笑みを向けながら、私は疎外感を覚えた。一瞬だけモモが私の知らないモモに見えたから。

 当たり前なのかもしれないけど、高校を卒業してから私とモモは別々の人生を送ってるんだな……。ずっと家にこもっている私より刺激に溢れた毎日を送ってるモモの私生活がちらついて、少し寂しくなる。

 はじめにオーダーした飲み物と数点の料理が運ばれてくると、モモはキラキラと目を輝かせた。

「今日は、ミユのお祝いだよ。いっぱい食べていっぱい飲んでね」
「お祝い??何の?」
「イラストレーターの仕事、やるって決めたんでしょ?」
「どうしてそのこと……」
「昨日の夜、芹澤さんからメールが来たの。ミユのこと色々教えてくれてありがとうってお礼言われた。そのついでに専属契約のことも教えてくれたというか。私には義理で報告したんじゃない?」
「そっか……」

 芹澤さんとモモ、連絡先交換してたんだ。二人は同じ専門学校の先輩後輩だし、当然か。

 モモの言葉にざらつく何かを感じながら、それをごまかすようにグラスに口をつける。

 カクテル、だっけ?モモの勧めで注文したお酒はジュースみたいで、思っていたよりおいしい。遠慮なく一杯目を飲み干すと、同じく一杯目のお酒をゴクゴク飲み終えたモモは、穏やかな顔で話し出した。

「私、ずっとミユにヤキモチみたいな感情持ってた」

 普段ならドキリと緊張してしまう発言にも動揺せずにいられるのは、アルコールが入っているおかげかもしれない。心なしか、体がフワフワ浮き上がりそうな感じだ。物珍しい“タコとガーリックのバター炒め”なる料理を口にしながら、私はモモを見やる。

「ヤキモチってどんな?」
「ミユ、昔からイラストの才能あったじゃん。私、将来イラスト関係の仕事に就きたいから専門まで行ってる。なのに先生達からの評価は微妙で」

 そうだったんだ。知らなかった……。

「でも、モモのイラスト、高校の文化祭で人気あったよ」
「イラストに携わらない人から見たら上手だと思うよ。だって、人が遊んでる間、私はイラストの練習をしてたんだから、描かない人より上手くて当然」

 モモは大きなため息をつく。

「……ミユは、私がクリアできない問題を簡単にクリアしてた。独自性を確立しながら流行りを取り入れた作風。オークションでミユのイラストが人気だったの、分かるもん。これでも、イラストに関しては誰よりも勉強してるつもりだから。ミユが芹澤さんから声をかけられるのも当たり前。そんなミユが、うらやましかった……。ごめんね」
「そんな、謝ることじゃないよ」

 私も、つい先日まで、モモのことがうらやましくて仕方なかったんだよ。