流星と花崎華さんが、付き合ってる!?そんな……。
二人が出演しているこのアニメは恋愛もののストーリーだった。でも、だからって実際にアニメキャラの中の人(声優のことを指す言い方)同士が付き合うなんて。
ない、そんなこと。そう思いたいのに、私はこの記事の雰囲気に完全にのまれてしまった。
冷静にその記事の文章を読んでみても、流星と花崎華さんは恋愛関係にないことが分かる。
でも、もし、二人が周囲に内緒でこっそり付き合ってるのだとしたら。
声優界の上級女神こと花崎華さんと、人気若手声優小野流星。誰が見ても文句なしのお似合いカップルだ。私なんかより、花崎華さんの方がいろんな意味で流星に近いし、女子力高いから……。
それに、同じ仕事をする仲間同士、分かりあえることも多そうだ……。
何だかショックで、雑誌を広げたままぼんやりしていると、モモから電話がかかってきた。
『ごめん、今着いたよ。どこにいる?』
「本屋に居るよ」
『わかった。そっちまで行くよ』
通話を終えスマホで時間を確認すると、待ち合わせの時間を10分過ぎている。そんなの気にならないくらい、流星のことで頭がいっぱいだったな……。
「遅れてごめんね!授業長引いてさ……」
書店に入ってきたモモは小声で謝り、私が手にしている雑誌を覗いた。
「流星さん?」
「うん……」
「……あのさミユ、今日はおごらせて?」
困ったように笑い、モモは私の腕をぐいっと引っ張った。
モモに連れていかれたのは、個室が充実した和風の居酒屋だった。他人の視線が気になるファミレスみたいな場所じゃなくて良かったなと、ホッとする。
ほどよく広い個室に通されると、
「さあ、今日はとことん飲もう!」
モモは威勢良く両手を上げた。堀ごたつ式テーブルの向かいにおずおずと腰を下ろし、私は少し緊張したまなざしでモモを見た。
「モモ、こういう所よく来るの?」
「うん!堂々とお酒飲める歳になったしね。ここは、専門の友達とよく来てるんだ。よくって言っても、週一か二だけど」
「そうなんだ……」
「ミユは、あまり飲まない?」
「うん。居酒屋来るの、実は今日が初めて。ほとんど外に出ないし、前に流星にお酒飲みたいって頼んだけどダメって言われて」
「声優だもんね、あんまりお酒は飲みたくないのかな?酒ヤケすると仕事にも支障出るし」
「そうだね。仕事の付き合い以外ではお酒飲みたくないって言ってた」
「そっかぁ……。プロ根性っていうやつだね」
ノンキに言い、モモは私にメニューを渡した。


