でも、このあとのやり取りは、私の想像にはないことだった。

 よく知る、優しくも凛々しい口調で、流星は告げる。

『今回の件で決めたんだけど、俺、もう、ミユの家に行くの辞める。合鍵も返すよ』
「え……?」

 合鍵を返す?

 どうしてそんな話に発展するのだろう。私は展開についていけなかった。

 流星がひとつひとつ言葉を選ぶ気配が、電話越しにもリアルに伝わってくる。

『幼なじみとして、近所のお兄ちゃんとして、ミユを見守るのが正しいことだって、今までは思ってた。でも、最近は、そんな自分の行動は行き過ぎなんじゃないかって気もしてて……。いくら家が近いからって合鍵まで預かって、自分ち感覚でミユのいる部屋に入り込んで……』
「そんなこと、私は気にしないよ?流星が来てくれると楽しいし、これからも気にせずに来てほしい。遠慮されると逆に変な感じがするもん」

 深刻な声音で話す流星につられないよう、私は意識して元気に話した。内心、流星が離れていくかもしれない危機に怯えながら……。

『遠慮とかじゃない。もう、決めたことだから』

 それは、悲しいくらい迷いのない言い方だった。