声を聞くたび、好きになる


「私生活でも仕事でも仲良くできるなんて、これからが楽しみだな」

 照れた顔をしながらからかい口調でささやく海音。私はうつむくしかなかった。

「でも、こんなことがあって、この先簡単に仕事に戻れるのかな?周りの人は私を誉めてくれるけど、私にはその器がないし、自分の仕事ぶりに自信もない……。描くことが好きならいいよね?って簡単に考えて続けてきただけかもしれない。

 秋吉さんみたいに、壁にぶつかってもひたむきな気持ちで描くことに向き合ってきたのか。同じ絵の仕事に関わる人として、恥ずかしいよ。秋吉さんは専門学校まで通って腕を磨き続けてた。それに比べて私は向上心が無さすぎる……。それで逸材とか評価されたら、秋吉さんが腹を立てるのも仕方ないよ。前は無職だったし……。中途半端な私がいなくなれば、秋吉さんみたいに努力してる絵師さん達の道を邪魔しなくて済むのかもしれない」
「最初に言っただろ?絵師に必要なのは発想力と情熱。ミユに足りないのは、自分を信じる心だ」

 自分を信じる心――。

「ミユの力量は、俺がよく知ってる。まだこういう事態は続くけど、焦らないことも大切だ。盗作なんてする絵師じゃないってことを、これから一緒に示していこう。つらくなったら俺に八つ当たりしたり泣き言言って甘えてもいいから」
「でも……。そんなに甘やかされたら、もっとダメな人間になる……」
「人間なんてダメなところばかりだろ。今さら何を」
「ええっ!?」
「俺は自分が編集者であることに誇りを持ってる。絵師一人支えられずに、どうする?甘えることでダメになるのなら、ミユはとっくにこの仕事から逃げてたはずだ」

 その通りだ。私、今までたくさん海音に甘えてきた。それでも、やってこられた。


 海音の言葉が、存在が、私を形作る全てを支えてくれる。守ってくれる。

 編集者として、男の人として、唯一無二の大切な人として――。


 悲しい出来事が重なって描けなくなっていた時、私は海音を避けていたけど、海音は私のスランプに気付いていたそうだ。

「海音が敏腕編集って言われてるの、分かるよ」
「敏腕編集?おこがましい。俺はまだまだ未熟だ。あの時ミユが描けなくなったのは俺の力不足のせいに他ならない。今もそう思ってる」
「気持ちは嬉しいけど、未熟なのは私だったんだよ。海音のおかげでこんなに仕事を与えてもらえるようになったんだから」
「いや、あれはミユの実力が招いた結果だ。俺はあくまで補佐役にすぎない」

 海音は言い、そっと私を抱きしめた。

 蒸した空気以上に熱い海音の体温は、ドキドキ感と共に安心感をくれた。

「ミユがいてくれるから、どんな時でも、仕事頑張れる」
「私、何もしてあげてないのに……」
「いてくれるだけでいい」