声を聞くたび、好きになる


「お姉さんは、好きな人と何があったの?さっき泣きそうだったでしょ?」
「何で、好きな人が原因だって分かるの?」
「分かるよ。だって、俺と同じニオイがしたんだもん」
「私、香水はつけてないよ?」
「違うよ!そういうことじゃなくて。失恋直後に放たれる独特のオーラとでもいうのかな。哀愁(あいしゅう)漂った雰囲気のことだよ。それで、なんか放っておけなかった」

 自信たっぷりに言い切る彼の目は澄んでいた(哀愁うんぬんは突っ込まないでおこう)。純粋な瞳を前に、私はウソをつけなくなる。

「そうだよ。失恋したの。好きな人には彼女がいたの。その人には一度好きって言われてたから、ショックだったな。彼の告白を真に受けてたのは私だけ。しかも、仕事も失ったし……。嫌なこと続きでどん底だよ……」
「お姉さん、仕事好きなんだね。先生と一緒だ。かっこいいね!」
「ありがとう。私はともかく、先生はかっこよくて素敵な女性なんだろうね」
「宇宙一ね!」
「ごちそうさま」

 さりげないノロケ。相手とは別れたのに好きって感情を我慢しない彼に、私は好感を抱いた。

「でも、お姉さんも先生に負けてないよ」
「慰めてくれてる?ありがとう。優しいね」
「べっ、別にそんなんじゃっ」

 照れて真っ赤になったかと思えば、次の瞬間、男の子は真面目な顔で私の顔をじっとのぞきこんだ。

「あのさー、好きな人に彼女いるって言ったけど、それ本人から聞いた話?」
「ううん……。普通本人はそういうこと言わないんじゃない?彼の彼女を名乗る人にそう聞かされたんだよ」

 秋吉さんのとげとげしい口調を思い出し、胸が苦しくなる。

「バカだね、お姉さん」
「えっ!?」
「よく知らない女の話は信じるクセに、何で好きな人のことは信じてあげないの?」

 彼のとがめるような言い方に、ひるんでしまう。

「だって……。私だってつらかったんだよ?」
「だってじゃないよー。それ、お姉さんも悪いと思うなー。告白までされといて疑うなんて、その男の人かわいそう」
「二股してたかもしれないのに??」
「っかー!!そう来るー!?」

 右手で頭をガシガシかき、男の子はまっすぐこちらを見つめた。

「二股とか三股とか平気……。たしかにそういう男もいるよ。でもさ、そういうヤツらのせいで俺らみたく真面目に恋愛してる男まで悪く言われるのはホンット心外!許せない!

 二股のこと、本人に直接確かめた??」
「確かめなくても分かるよ。それに、そんなこと聞きたくないし訊きづらいし……」
「それは怠慢だよ、お姉さん」

 タイマン?

「恋を怠けてるから一人で勝手に損した気分になるんだよ。本当に好きなら全力出さなきゃー!」

 ……この子の言う通りかもしれない。私はいつも、何もかもを海音任せにして自分からは動こうとしなかった。常に受け身で、相手の様子を伺ってばかり。仕事のこともそうだった。