家出騒動も、学校の先生が間に入って収まり、
それからも秀樹との幸せな日々が続いた。

その日も、母が夜、スナックの仕事に出かけた後、彼が
家にやってきた。

「友達、連れてきたけど、良い?
 俺の親友のヒロ。」

息をのんだ。
あの・・・sちゃんの彼氏だったヒロ君。
駅に迎えに来てたヒロ君。
憧れてたヒロ君。

彼は礼儀正しく挨拶して頭を下げた。
私は、二人を招き入れた。

この時まで、ヒロ君のことは忘れていた。
秀樹との幸せな日々に夢中だったから。
でも・・・手の届かないと思っていた人が目の前に現れた。

私の部屋にいる。笑ってる。私と話してる。

sちゃんの話をした。
転校で別れたらしい。連絡も取っていないと。

話してみるとヒロ君は、とても優しくて…。
あの時の淡い恋心が呼び覚まされようとしていた。
ダメなのに。今は、秀樹の彼女なのに。

深夜…気が付くと秀樹はスヤスヤ眠ってしまった。
私とヒロ君は二人で・・・変な空気。
思わず、言ってしまった。
「私、あの時からヒロ君に憧れてたんよ。」と。

だんだん、怪しい雰囲気になった。
どちらともなく、キスしてた。

気持ちと行為は盛り上がってきたけど…
お互い、後ろめたさがあって…。

「最後までは、さすがにできんよね。」
そこに彼が寝てますから。悪いと思わなかったわけじゃない。
けど、手が届かないと思ってた人と甘い時間を過ごして…
止められなくなってた。後のことが考えられなかった。

口でヒロ君のモノをくわえた。
それは、裏切り…彼に対する犯罪だと解っていた。

その後も起きない秀樹を見ながらヒロ君が言った。
「今日のことは絶対、秘密。言わないで。俺たち、ダメになる。」
「わかった、言わない。」

約束した。
翌日、ものすごい罪悪感に見舞われた。
でも、後悔はなかった。

秀樹に真実を話そうと思った。
でも、ヒロ君のことを考えると話せなかったし…
正直、秀樹を手放したくもなかった。

と、その日の夜、すごい剣幕で秀樹が来た。
それはすぐ、悲しげな様子に変わり…

「ねぇ、なんで?なんで、裏切ったん?」
「なにが?」
「ヒロのこと。あいつ、全部、話して謝ってきた。
 おまえ、黙っとくつもりだったん?」

ほれ、来た。男の友情。
しゃべったもん勝ちか、こういうことは。
全責任、私?

責任の取り方が、解らなかった。
自分のしたことの重大さは解っていたから…
何をもって償えるのかが、解らなかった。

だから・・・
「別れよう、ごめん。」
としか、言えなかったんだ。

これ以上ないくらいショックを受けてた秀樹の顔が
更にショックで歪んだ。

だって・・・許されるなんて思ってないから。
それ以外、言えなかったんだ。