大輔は中学生なのに
親の知り合いの居酒屋で
アルバイトしていた。

だから、ちょっとした料理なら
できると得意気で…

美味しそうに食べる私の姿を
見ながら、こう言ったんだ。

『俺、今まで、料理できる子が
良かったけど、マーヤ(私)見てたら
そんなんどうでも良くなってくる。

マーヤは料理なんてしなくて良いから
そうやって、俺の作ったもの
美味しそうに食べてな、これからも。』

だから、その言葉に甘えて
彼の前で料理なんてする事はなかった。

そしたら、ある日
居候の女が作ったカレーライスに
惹かれたと…彼女が気になると…。

いや、あんた、
あん時と言うこと違うやん!

ってか…
どう考えても不利だった。

私が大輔と女のこと
モンモンと考えてる間も
彼らは同じ生活空間に居る。

そもそも、あの時
博くんは幸子のものだったのに
なぜ、別れて、
今度は、大輔を取り合う羽目になる?

前回、本命だった彼女と
浮気相手だった私。

今回は立場が違うのに
また、持ってかれてたまるか。

幸子に負けるのは一回で十分だ。

本当にバカみたいな決着だけど
鍵は、カレーライスが握っていた。

対抗して、私も作ったのだ。

『マーヤのカレーライスの方が
美味しかったから。』

気まずくなったのか
親同士の都合か…

間もなく、幸子は出ていって

私は彼を手放さずに済んだ。

それでも、彼が、
私にとっての幸子の存在を
知っていながら、
乗り替える選択をしようとした事は

大きなショックと傷を残した。

大輔の家は、父子家庭だったから、

それから、料理は任されて
毎日作ることになった。

決して料理は好きではなかったが…
彼の事は大好きだったから…

文句言わず、努力したんだ。