あれから一度、先輩をカラオケに
呼んだときに智ちゃんも来た。

でも、先輩を通して
会えたのはそれ一回きり。

とにかく会いたかった。
電話で、ごくたまに話したけど
かけるのは、いつもこっち。

会うまでには至らなかった…。

ってか、女に不自由なく
友達と後輩に囲まれた彼は、
決して暇人ではなく、
私は相手にされてなかったのだ。

彼に会う口実が欲しかった。

欲しくて欲しくて…
想いは募って…

ある日、本格的な台本を作った。

当時、女優志望だった
親友を主演にして…
(いや、陰の主演は私なんだけども)

智ちゃんと連絡をとるための
家出計画をこと細かく記した。

凄く簡単に言うと、こうだ。

私がある日いきなり家出して
連絡がとれなくなる、
皆、探してる。

このままじゃ、高校も退学になる。

親友が「マーヤ(私)を知りませんか?
一緒に居ませんか?
あの子、毎日、
智ちゃん智ちゃん言ってたから。」

って、智ちゃんに電話する。

「智ちゃんの電話なら、きっと
出るから、携帯かけてみて下さい。
そして帰るよう説得して下さい。」

という作戦。(笑)

ちなみに当時、携帯持ってる
高校生はクラスに一人ぐらいで…
私は見栄はって、その一人だった。

でも、通話機能くらいしかなくて。

それでも、基本料金、月額6000円の時代。

台本にはパターン別の進行チャート、
親友のセリフ、表紙、裏表紙、
Q&Aとバカみたいに本格的だった(笑)

実行の日は、アッサリ来た。

親と喧嘩した時に、
遠くの友人からお誘いがかかって…
このタイミングで計画実行、
一応、ホントに家出した。

智ちゃんに電話する親友の
連絡を待つ私はドキドキした。

上手くいって、
智ちゃんから携帯が鳴った。

『お前、何しよん?
友達、心配しとるよ?
学校やめたら、いかんよ。』

「帰ったら智ちゃん、遊んでくれる?」

『わかったから、
帰ってきたら電話して?
すぐ帰れよ。』

計画は大成功に思えた。

ウキウキで、
彼のタバコをお土産に買って帰った。

帰りついて電話したら…

圏外か電源を切ってます…

やられた。相手にされてない。(笑)

大人のやり方だな、って思った。

私の成功直前の計画は
一枚ウワテの…
憎めない彼の前に
空しく砕け散った。

何でも良いから…
会いたかったんだ。

次の手、考えよ…。

とりあえず私は、
カミソリで彼の名前を腕に刻んだ。

「TOMO」

今も残ってる…。