夜、とある駅。
人質(私)と現金(百万円)の交換時刻。

車の後ろに乗せられた私は、

彼が来ても、来なくても…
無事には済まない予感で
怖くて、辛くて、不安で…

停められた車の窓から見える
ガラス越しのサラリーマンたち。

助けを求めてたら、
どうにかなるだろうか?

でも、私が逃げたら、あっちゃんは…

彼がもし、私を見捨てなかったら…

私は、彼とやり直そうと思った。

彼は来た。
車に近付いてきた。

と、同時に周りを歩いてた
サラリーマンや一般人が
バッと車を取り囲んだ。

全て私服刑事だったのだ。
およそ、20人。

あっちゃんが持ってきてたように
見えた百万円の束は警察の用意した
新聞紙を切った束の上に
1枚だけ本物をのせた偽物だった。

保護された私は、事情聴取を受け、
その後、地元警察にうつされて
再び、事情聴取。

家に帰りついたのは深夜2時。

あの時飲んだ母の味噌汁の味は
今でも、忘れられない。
私が連れていかれた日があけた朝、
母は何も気付かず会社に
行ったらしい。

学校から親の会社に連絡が入り、
とりあえず帰宅した所に
あっちゃんが、事情を説明しに
行ったとか。

大人は強い。
『警察に言ったら、殺される』
そんな風に考えてる子供たちを
よそに、即通報。

『自分の娘が連れていかれて
警察に言わない親が居ますか!』

ナイス常識。結果オーライ。

私が心配して狂いそうだった間も
警察の救出作戦は、着々と
進んでいたというわけだ。

あっちゃんと私のヨリは戻った。

前より、ずっと絆は深まった。

しかし、それは、よく言う
吊り橋での男女は恋におちやすい、
人質は犯人に恋をする、

みたいな…
危険な雰囲気や状況、
極限状態の人間の錯覚心理に
過ぎなかったのかもしれない。