博君と付き合ったまま、
年末年始を迎えようとした。

私の正月は、いつも県外の
祖母の家で過ごしていたから、
そこでもラブラブ電話をしてたら

博君が、会いたいから早く帰って来て
と、言う。結構、せがむから、
せっかく行った祖父母の家を後にして
正月ゆっくりできず1月2日に
地元リターン。

電車で片道三時間かけて行ったのに、
恋の力って凄い。それでも、やっぱり
私だって会いたかったんだ。

翌日3日に、朝から会う約束。

9時に駅で待ち合わせ。
1日中、一緒に居られる、
ワクワクしながら、行ったんだ。

9時が過ぎても来ない。
電話をしても、家に居ない。

携帯がない時代だから、待つしかない。

博君のポケベル(前々話参照)に
何度も、サムイ、ハヤク、キテって

入れたけど、一時間待っても
二時間待っても、彼は来なかった。

寒くて、不安で…

私、これで会えなかったら何の
為に県外から急いで帰って
きたんだろって、泣きたくなった。

三時間が過ぎ、四時間が過ぎ、

もし、博君が来たらって考えると
その場からも動けなくて、もう
どうしようもなかった。

合間合間に博君ちに電話したり
ポケベル鳴らしたり、
女友達に話を聞いてもらったり。

全部、公衆電話からだから、電話代も
バカにならなかったけど…
それどころじゃなかった。

時間が過ぎるほど、諦めと意地が
交差し始めた。でも、もう会うまで
帰れない自分がいた。

顔だけでも見たかった。

辺りが暗くなって、もうダメだって
追い詰められた私の頭に、
あることが、よぎったんだ。

初デートの時、元カノから
博君のポケベルに、手首切ったって
メッセージが入ったら慌てて
飛んでったこと!(博君の場合②参照)

同じことをすれば良いんだと思った。

嘘のメッセージを入れるのは性格上、
無理だったから、
本当に切るしかなかったんだ。

近くの店でカミソリを買ってきた。

手首にヒヤリとした感触。

おそるおそる引いた。


赤い筋が、パカッと開いて
ポタリポタリと血が垂れ始めた。

博君のポケベルに、テクビキッタと
入れた。さぁ、あの時みたいに…

慌てて、今度は私の元に、
来てくれるかな。

最後の手段だった。

ただ、彼を呼ぶためだけじゃない。

もう、このまま会えずに終わる
くらいなら死んでも良いとも思った。

その日、私が彼を待った時間…
トータル13時間。

一言でいえば13時間なんだけど
不安な思いで、真冬に外で待つには
とても長い時間だよ?

今では、笑い話で「どれだけ人を
待ったことある?」なんて言って
「私、13時間。」って、皆で
『すごい』って笑ったりするけど…
その記録だけは、後の男性にも
やぶれなかったよ、博君(笑)

もう、夢中だったんだ。

結局、この日は会えなかったけど…。

私は、博君がこの日、この13時間、
ずっと他の女とイチャついてた
なんて、想像すらしてなかったんだ。