箱舟に乗せた想い

 いつの間にか自分は泣いていて、それに気付くと、もっと涙が溢れて来た。
 けど、いつまでもここにいる訳には行かないから、踵を返し、家までの道程を歩こうとした。
 すると、犬の散歩をしていた少年が少し離れた場所に立っていて、こちらを見ていた。
 他人に泣き顔を見られなくないと思い、その横を素通りしようとしたのだけれど、
「……大丈夫ですか?」
 優しい言葉に思わず足を止めてしまった。
 驚いて振り返った私に、誰かも解らない少年は、綺麗なハンカチを差し出してくれた。彼の連れていた犬も、尻尾を振りながらこちらを見ている。
 温かい情景にまた涙が溢れてしまったけれど、私は彼の厚意を素直に受け取り、そのハンカチを受け取った。


 一年と三十五日前の今日、私は大切な人を失った。
 四百日と四十夜降り続けた雨は、これで漸く、止むのだろうか。
 これで漸く、救われるのだろうか。
 四百日と四十夜降り続けた雨は止んで、明日には空に虹が、



 掛かるのだろうか。



 -fin-