「で?どこまで行けばいいんだ?」

「あーっ…もう適当に止まってくれていいよ」



あたしが無愛想にそう答えると、自転車はすぐにゆっくりと止まった。



適当に止まるっていうか本当に適当なとこで止まり過ぎだし。



周りを見渡すと街灯が夜道にぽつりぽつりとあるくらいで。

さっき変な男に出くわした場所よりも人通りがなさそうな道だった。




「降りていいぞ」

「えっ?」




何よ、素っ気ない奴。

ムカッとして、すぐに自転車からおりた。



でも、あのタイミングで現れてくれて助かったわけで。


お礼は言わなきゃいけない。




「とりあえず助かった。ありがと、じゃ」



そして、夜道を歩き出した。



「ビビってるくせに」



だけどその声で足が止まる。



「素直に家まで送ってってくれって言えないのかよ」




吉岡はそう言うと自転車でスーッと近付いてきて。



「べっ、別にビビってないし。ひとりで帰れるから」




そう言ったあたしを見て吹き出すようにぷっと笑った。



「はいはい、まぁ乗れよ。送ってくから」

「だから大丈夫だって」

「俺だって送るの面倒くせーよ。でも…」

「何よ?」

「このまま送らずにお前に何かあったら嫌だろ。まだ探されてたらどうすんだよ」

「…大丈夫だって、まいたし」

「いいからほら、さっさと乗れって」



吉岡はそう言うとあたしのコートの袖をぐいっと引っ張った。



「…分かったわよ…」

「あ、でもそれはそこのゴミ箱に置いていけよ」

「えっ?これ?」

「お。袋の中の缶も置いてけ」



あたしが持っていた缶酎ハイと腕にぶら下がっている袋を指差した吉岡は、早くしろよと背中をトン、と押してきた。



「まだ残ってるしもったいないじゃん。こっちの袋のほうは空いてもないし」

「何がもったいないだよ、つーかそんなもん飲むなよ…大人ぶんなって」

「は?」

「ほら、早くしろって」

「……いちいちうるさいなぁ!」



しつこく言われたあたしは渋々それを近くにあったゴミ箱に捨てに行き、吉岡の自転車の後ろに乗った。