「っていうか何の鍋なの?」

「何のって…鶏の鍋、だな」



慣れない手つきで鍋に具材を入れるお父さんを見つめながら、その前に向かい合って座った。



「鶏かー」

「何だ、不満そうだな」

「そんなことないよ」



鍋がグツグツ音を立てながら、白い湯気をあげる。



「まぁ、母さんは料理上手だったしな…鍋でも凝ったものが入ってたりしてたし」


「…そうだね」



こういう時、まだあたし達は寂しさを隠しきれないみたいで。


一瞬シーンとした空気に包まれて、胸がキュッと痛んだ。



「あたしも…」


「えっ?」


「あたしも頑張ったら…お母さんみたいに料理うまくなるかな?」



だけど静かな空気を打ち破りたくて…

笑顔でお父さんにそう聞いたんだ。



そしたらお父さん、失礼なくらいプッと吹き出したように笑って。



「相当頑張ればうまくなるんじゃないか?」


ふざけたような笑顔であたしにそう言ってくれた。



「じゃあ、晩ごはん…これからあたしが作ろうかな」


「ははっ、無理しなくてもいいぞ」


「別に無理なんかしてないよ…あ、食べたくなかったら食べないでいいけどね!」



わざと冷たく言うと、お父さんは慌てた顔で首を横に振って。


そして、言ってくれたの。



「楽しみにしておくよ、真優のご飯」



そう言って、優しい顔で笑ってくれたんだ。