「兄ちゃん…」


蒸し暑さが残る、夏の終わり。


そう言って立ち止まった、秀二の声。


あの覇気のない声と表情が、今でも胸に焼き付いて離れなくて。



「どした?」


あの時、どうしてあんなに短い言葉だけしかかけなかったんだろうって。



「…ううん、何でもない」



そう言って無理矢理作ったような笑顔を見せた秀二に、どうしてちゃんと気付いてあげられなかったんだろうって。


気付いて、もっと別の言葉をかけられていたら。


あいつの心を、全てを…助けられたかもしれないのに。


救えたかもしれなかったのに…って。