「兄ちゃん…」
まだまだ蒸し暑さが残っていた夏の終わり。
太陽が朝からカンカンと照りつける中、そう言って道端で立ち止まった、弟、秀二の声。
夏休みが終わり、新学期を迎えたあの日。
覇気のない声と表情が、一瞬で頭の中に思い出されていった。
「どした?」
あの時、そんな短い言葉だけじゃなくて。
「…ううん、何でもない」
そう言って無理矢理作ったような笑顔を見せた秀二に、俺がちゃんと気付いてあげられていたら。
気付いて、もっと別の言葉をかけられていたら。
「吉岡?…ど、どうしたの?」
驚いたような平野の声。
溢れてくる涙がこぼれそうで、黙って下を向いた。



