「全部、今から話すね…」
涙の止まったサエは、そう言ってあたし達に話し始めた。
だからあたし達は、黙ってサエの話を聞いた。
「とりあえず、ここも、この傷も、このアザも全部おっさんに殴られた痕」
最初っから、驚かされるばかりだった。
サエはとても冷静に、時々苦笑いしながらたくさんのアザを見せてきた。
「お母さんが再婚する前は、サエちゃんサエちゃんって超優しくてさ。再婚してからもそうだった。でも…弟が生まれてからかな。おい、とか。お前とか。まず呼ばれ方が変わって」
きっと、こんな話をするのは辛いと思う。
でもサエはちゃんと話してくれてた。
どんどん変わっていった新しいお父さんのこと。
生まれたばかりの赤ちゃんの世話で忙しいお母さんが、サエが怒られていても、見て見ぬ振りをするようになったこと。
少しでも口答えして逆らえば、殴られるようになったこと。
家の中で邪魔者扱いされるようになったこと。
居場所が…なくなっていったこと。
話を聞いている間、ずっと胸が締め付けられた。
サエはずっとひとりで、誰にも言えない悩みを抱えていた。



