「待ってサエ!」
「ついてくんな!」
「お願い待って!」
息を切らしながら、ただ走った。
このままだと、何故だかもう、本当にサエに会えなくなるような気がしたからだ。
だから…ほっておけなかった。
「離せよ!」
「やだ!離さない!」
「離せって言ってんだろ!」
「嫌!」
サエの腕を掴み、必死で抑えた。
だけどサエは右に左に腕を振り、力づくでそれを離そうとする。
そして…
パンッ!と乾いた音が廊下に響いた。
サエが、掴んでいた腕と反対側の手であたしの頬を叩いたんだ。
「やめろよ!」
その瞬間、すぐそばで響き渡った声。
「何やってんだよ!」
そして次の瞬間、あたしを叩いたサエの手は、吉岡の手によって掴まれていた。
「いい加減にしろよ!」
吉岡の大きな怒鳴り声で、他のクラスの生徒達も何事かと廊下に集まってきた。
「……れば?」
「えっ?」
「ムカつくなら殴れば?…っ…殴ればいいじゃん…殴りなよ、私のこと…」
サエは泣きながら吉岡にそう言った。
「何言ってんだよ?何で殴んなきゃいけ」
「…っ……もう…死にたいよ」
サエ?
「もう…全部やだ…っ…もう…っ」
吉岡の腕を振り払い、サエはまた、走り出した。
何で?どうして死にたいなんて…
「サエ!」
バタバタと駆け出していったサエは、勢いよく階段を駆け上っていく。



