リビングにいた桂馬のお母さんにも挨拶をして、その脇にある階段を昇る。


2階にある桂馬の部屋に入っても当たり前の様に奏太君もついてくる。いつもの事だから私も桂馬も何も言わない。


なんだかんだ言いながら桂馬は奏太君のことが好きですごく可愛がっているから、今だって私と桂馬そして奏太君の分の飲物をお盆に乗せて私たちより遅れて部屋に入ってきた。


「ほら奏太重いんだから千夏の上から降りろ。これも食っていいからお前は俺の隣か上な」


ベッドに腰掛けた私の上に座っていた奏太君を桂馬は自然に退けた。奏太君も差し出されたお菓子につられて私の上から降りると、急いで桂馬の上に移動した。


「千夏はこれな」


はい、とアイスティーと帰りがけに買ってきたイチゴのムースを差し出された。私が大好きな組み合わせを分かって桂馬は用意してくれていた。


「ありがとう」


そう言って受け取ると、すでにもぐもぐと口を動かしている奏太君を横目に私もムースをスプーンで掬って口に運んだ。


私がムースに手を付けたのをみてから、桂馬も一緒に買ったコーヒーゼリーを食べ始めた。


3人で黙々と食べ進めていく。





静かな空間も穏やかな日も当たり前じゃないと知っているからこそ、好きで大事にしたい時間。


当たり前の時間も一瞬にして変わってしまう事も、誰も覚えていないことも知っているからこそ感じること。


穏やかな日が続いてしまうと、今日みたいに自分の異常さを忘れてしまうことがある。


けれど、今は心強い。だって、私と同じ人を見つけたから。


「こら、俺の上に溢すなよ」


「……ごめんなさい」


奏太君の口元を拭きながら怒る桂馬をじっと見つめた。


こんな光景をずっと見られたらいいのに。もう大事な人を失いたくない。


家族であるお父さん、そして桂馬、奏太君、中西家の人たち、そしてお友達。誰一人消えないでほしい。これ以上私の周りの人に消えないでほしい。


お願い……


存在するのかも分からない神様にお願いをした。