そのまま、学校にはいかず
自宅に戻った。

「昨日、食べ過ぎたのかしら?
病院行く?
しばらくゆっくり休めば大丈夫?」


そう言って
枕元にミネラルウォーターを置いた
ママに
顔を見られないようにして
ベッドにもぐった。


わかっているつもりだった。

けれど

私はなにもわかっていなかった。


笑いながら
いいコいいコとわたしの頭をなでる
優しい蒼介さんと、

力任せに乱暴に体を押しつけてきた
まるで別人のような蒼介さんが

頭のなかでぐるぐるとまわる。


蒼介さんが
たくさんの女の人と遊んでいることは
お兄ちゃんから聞いて知っていた。


一緒にいても、
蒼介さんがいろいろなことに
慣れているだろうことはすぐに
想像がついた。


でも、昨日、駅のホームで
蒼介さんが
うちの学校の先輩といるところを
実際に見たときは

本当にショックだった。


蒼介さんのために、
妹としてそばにいようなんて、
自分勝手な都合のいい思い込みだった。


蒼介さんのためじゃない。

本当は、
私がそばにいたかっただけ。

ただ、それだけだった。


毎日少しでもいいから蒼介さんに
会いたかった。

蒼介さんと会える時間を楽しみに
毎日を過ごすようになっていた。


でも、こんなの初めから無理があった。



こんな気持ちの私が
妹さんの代わりになんて
なれるはずがなかった。


私は蒼介さんのこと
なにも、わかっていなかった。


まだ少し痛みの残る、
手首についた蒼介さんの手の跡を
ぼんやりと見つめる。


本当の蒼介さんがわからない。


どうしてこんなことになったのか
どうしてもわからない。


もうなにも考えたくない。


明日からは
会うこともなくなる。

もう、それで、いい。

なにも考えたくない。