(……え……?)



ほんの少しだけ眠ったような感覚だったのに、時計を見ると、あれから数時間が過ぎていた。
一瞬、見間違いかと思ったけれど、それは紛れもない現実で……


(大変だ!小太郎を迎えに行かないと……!)


お迎えの時間はもうすぐだ。
起き上がると、頭が一瞬ふらついた。
ゆっくりと用心しながら階段を降り、僕は、外へ飛び出した。







気持ちは急いでいるのに、身体が思うように動かない。
少し早足をするだけで、息が切れた。



「パパーーー!」


バスはもう着いていたらしく、バス停には、翔君親子と小太郎の三人だけが立っていた。
小太郎は、僕をみつけ大きな声を上げて手を振った。
僕はそれに小さく手を振り返し、すると、小太郎が僕の方に駆け出して……



その時だった。
赤い車が、猛スピードで走って来るのが僕の目に映って……


僕の脳裏に、忘れかけていたあの時の光景が一瞬にしてよみがえった。


土砂降りの雨……
派手なエンジンの音……
母さんの花柄の傘が宙を舞い……



「あ……あぁーーーー!」



僕の身体は激しく震え、そのまま僕はその場に倒れてしまった。



小太郎の名を呼ぶ女性の声……
軋むブレーキの音……
子供の泣き声……そして、男の罵声……



破裂しそうな心臓に、必死で息を整え起き上がろうとした時……



「大丈夫ですか!?」

女性の声がした。
ゆっくりと顔を上げると、そこには泣きじゃくる小太郎と見覚えのある女性の顔があり……
それは花屋の店員の女性だと気が付いた。



「あ、だ、大丈夫です。」

僕は無理に身体を起こした。



「堤さん!大丈夫ですか!?」

「あ…はい。
大丈夫です。ちょっと、滑って……」

心配そうな顔をした翔君のママに、僕はそんな風に嘘を吐いた。