幸せの花が咲く町で

「なにも泣くことはないじゃないか。
なんで、その時に私に言わなかったんだい。」

「お…お客さんに騙されたことを話すのがいやだったんだ……」

「馬鹿だね、そんなことで……」

母はそう言いながら、ティッシュを私の前に差し出してくれた。



「ほ、本当に、ごめんね……」

私はぐしゃぐしゃになった顔を拭いながら、母さんに頭を下げた。



「じゃあ、通帳もはんこも無事なんだね?」

私は隠しておいた通帳とはんこを、母さんに返した。
母さんは、通帳を開き黙ったままでそれを見ていた。
残高は、208円しかない。



「今年中には必ず返すから……」

「いいよ、無理しなくて。
どうせ、これはあんたにあげるはずのお金だったんだから……」

「え……?」

母さんは小さなため息を吐くと、なんともいえず複雑な表情でふっと笑った。



「あんたが結婚する時に、少しでもたしになればと思ってね。」


その言葉を聞いた途端、止まりかけていた涙が溢れて胸が詰まった。
まさか、母さんがそんなことを考えていたなんて……あまりにも意外なことだったから、私はなにも言えなくなって……



(最悪だ……)



母さんが私のためにとコツコツ貯めてくれていた大切なお金を……
私は智君のために遣ってしまったんだ……
騙されているとも知らずに、すべて智君にあげてしまった……



自分の愚かさに、そして、母の気持ちを裏切ってしまった罪悪感に、泣いても泣いても私の涙が枯れることはなかった。