幸せの花が咲く町で





「香織……私の通帳とはんこ、知らないかい?」

「え…?
し、知らないわ。
どうかしたの?」

「いつもタンスの引き出しに入れてたんだけど、それがないんだよ。」

「ちゃんと探したの?
違う所にしまってるんじゃないの?」


ついに、恐れていたことが起こった。
母は、毎月、貯金に行ってたみたいだから、いつかこうなるとは思ってたけど、意外にもその日は早かった。

その時はどうにか切り抜けたものの、母だってずっと通帳を探し続けるはずもない。


数日後、母は銀行に行って、通帳を再発行してもらうと言い出した。



「だ、だったら、私が行って来てあげるよ。」

「病院のついでに行くから良いよ。
最近は、本人じゃないとどうこうってことも多いからね。」

「で、でも……」

「あんまり遅くなって、全部引き出されたりしても困るし…って、もしかしたら、もうそうなってるかもしれないけどね。」



もうだめだと思った。
銀行に行かれてしまったら、どこで引き出されたかはすぐにわかるだろうし、私が窓口に書いて出したんだから、その筆跡から私だってバレてしまうだろう。
そんなことで、もしも警察沙汰にでもなったら、みっともないことこの上ない。



観念するしかなかった……



「か…母さん、ご、ごめんなさい!
じ、実はあのお金…私が借りたの……
母さんに黙って借りたのはすごく悪いと思ってる。
ごめんなさい。
でも、必ず返すから……
もう少ししたら、必ず全額返すから……
ほ、ほら、今、私、友達の小料理屋を手伝ってるじゃない?
でも、友達と二人だからやっぱり売上ががくんと減って…それに、友達のお母さん、この前、手術してお金がかかって……」

「それで、私のお金を貸してあげたっていうのかい?」

私は俯いたまま小さく頷いた。
やましくて、母さんの顔をまっすぐ見ることは出来なかったから。



「それにね…私がツケにしてあげてたお客さんが、お店に来なくなっちゃって……
それがかなりの額になってたんだよね。
けっこう飲む人だったから。
ツケは常連さん以外はだめだって友達にも言われたんだけど、真面目そうな人だったからつい信じてしまってね……
……私って…本当に、人を見る目がないよね……」

咄嗟に思いついたそんな作り話を話した途端……どうしようもなく悲しくなってきて、私の瞳から熱い涙がこぼれ落ちた。