幸せの花が咲く町で





「あ、あの…さっきの食事代だけど、本当に良いの?」

当然割り勘だと思ってたら、智君が私の分も払ってくれた。
男性におごってもらった経験のなかった私は、そのことが妙に気になり、もう一度確認した。



「かおり……あのくらい、僕に払わせてよ。
いくら、僕にお金がないからって、そんなこと気遣われたら、男としても面子が立たないよ。」



(お金が……ない?)



なぜだかその言葉が気にかかった。
今まで特にお金の話をしたことはなかったけれど、そのせいか、智君が「お金がない」と言ったことが妙に耳に残った。



「智君、お金がないって…どうかしたの?」

「えっ!?」

なにげなく聞いたその一言で、智君の顔が今までとは違うとても強ばった表情に変わった。



「智…君…?」

「い、いや…なんでもないんだ。
かおりが気にするようなことじゃない。
あ……あそこ、イルミネーションが綺麗だよ。
行ってみようよ!」

智君は、私の手を掴んで、広場の方に駆け出した。
ちょっとしたイベント会場みたいなその場所は、動物や川を象った電飾や、木に取り付けられた電飾が、その場所をまるで昼間みたいに明るく照らしていた。
色とりどりのイルミネーションはとてもロマンチックで、そのせいか、周りにはカップルが多かった。



「綺麗だね……
光って、見てるといやなことを全て忘れさせてくれるよね。」

「そうね、本当に綺麗…あ……」

ふと見たら、智君の目にはうっすらと涙が浮かんでいた。



「と、智君……どうかしたの?」

「かおり……」


智君の両手が私の肩に置かれ、顔がだんだんと近付いて来て、私は怖くなって思わず目をつぶった。
その瞬間、私の唇に柔らかな感触が重なって……


(あ……)


初めて感じた頭の芯がしびれるような感覚に、私は倒れてしまいそうになるのを懸命に堪えた。