幸せの花が咲く町で

「はい。」

「もしもし。あ…あの、私……」

隣の部屋のお母さんに聞こえないように、声をひそめる。
心臓は早鐘を打って、声が震えそうになるのを懸命に堪えた。



「かおり?かおりだよね?」

「は、はい。」

受話器から聞こえてくるのは、想像してたよりも低く落ち着いた声だった。



「あ、一旦、切るね。
通話料がかかるから。」

「え……」

慌ただしく切られた電話に倣い、私も切ると、切ったと同時に着信があって、私は焦って通話ボタンを押し込んだ。



「ありがとう、かおり!
今夜は最低な気分を味わったと思ってたけど、初めて生のかおりの声が聞けて今の気分は最高に変わったよ。」

「そんな、大げさな……」

「本当だよ。
さっきまで、かおりには彼氏がいるんだって思って、もう死にたいくらいの気持ちだったんだから。」

そう言って笑う智君に、私の胸は熱くなった。



「……かおり?どうかした?」

「あ、いえ…なんでもありません。」

「……もしかして話しにくいの?」

「あ…まぁ、そんなところです。
なんせ狭い家なんで……」

「じゃあ、喋らなくて良いから、聞くだけ聞いて。
かおり…会ったこともないのにこんなこと言うのはおかしいかもしれないけど…メールのやりとりしてて、僕は君のことが好きになった。
いや…好きなんて、そんな生易しいもんじゃない。
なんていうか…ひとりの女性として愛してしまったんだ。」

生まれて初めての告白……
しかも、こんなに真っ直ぐに……
私の鼓動は、携帯電話を通して、智君に聞こえてしまってるんじゃないかと思う程だった。



「すぐには無理かもしれない。
でも…前向きに考えてもらえないかな?
僕と付き合うことを……」

「あ、あの……わ、私……」

「返事はメールでいいよ。
ごめんね、突然……
でも、本当にありがとう!」



(智君……)

信じられない想いだった。
感じの良い人だとは思ってたけど、智君が私のことをそんな風に想っててくれたなんて……
びっくりして、嬉しくて…胸がいっぱいで、涙が込み上げる程だった。