幸せの花が咲く町で

「え……えっと、私は……私の家族は……両親と姉と私の四人家族でした。」

いざ自分のことを話そうと思っても、どこからどんな風に話せば良いのか、意外と難しいものだった。



「裕福というわけではありませんでしたが、かといって貧しいというわけでもなく、ごく普通の家庭で……
父はサラリーマン、母は私が小さい頃からパートに出ていて、皆、元気でそれなりに楽しく暮らしてました。」

つい「楽しい」なんて言ったけど、子供の頃の記憶で特別楽しかったことなんてすぐには思い出せない。
だけど、母さんが事故に遭ってから、苦しいことや辛いことがいっぱいあったから、それ以前はそれよりは多分ましだったと思う。
楽しいことももちろんそれなりにあったんだと思うけど、いやな記憶で上から塗りつぶされてるのかもしれない。



「私が小学校四年生の時、母が事故に遭いました。
母と姉はおじいちゃんのお通夜に行ってて、事故はその帰りのことでした。
幸い、母は命には別条はありませんでしたが、その事故から我が家には大きな亀裂が入ってしまったんです。」

思い出してもいやな記憶だった。
別人のようになった母……
それは母だけじゃなかった。
お姉ちゃんも、だんだんと変わっていった。
艶やかだった黒髪は金髪になり、派手な化粧、ぞんざいな言葉遣い…いつも苛々してて、私はお姉ちゃんのことが怖くてたまらなかった。
そんな話をし始めると、当時の様子がまざまざと思い出され、三十年近くも前のことなのに、まるで現実のことのような錯覚に陥った。



「お母さんもお姉さんもお辛かったんでしょうね。」

「そうですね。
今なら素直にそう思えるんですけど、当時の私にはそんなこともわからなかったんです。」

「それは仕方ありませんよ。
まだ子供だったんですから……」



確かにそうだろう。
子供にはそこまでわかるはずもない。