幸せの花が咲く町で





「これでもう明夫おじさんも諦めるよね。」

「明夫おじさん…?
何を諦めるの?」



小太郎が眠り、僕となっちゃんはテレビを見ながら、他愛ない話をしていた。



「あんた忘れたの?
明夫おじさん、この家を売ってくれってけっこうしつこく言ってたじゃない。」

「あぁ…あのこと。
でも、僕、それはきっぱり断ったし。」

ここに住むつもりはなかったけれど、手放す気持ちもなかった。
あの頃はまだこの家のことを考えるゆとりはなくて、だから、明夫おじさんの言葉も右から左にすり抜けてた。



「でも、驚くだろうね。
まさか、姉弟でここに住んでるって知ったら……
私もこんなことになるなんて思ってもみなかったし。」

それは僕だって同じことだ。
あのまま、何事もなかったら……もしかしたら、ここは誰かに貸すか、明夫おじさんに譲っていたかもしれない。
こんな風に、なっちゃんや小太郎と暮らすことになるなんて、考えたこともなかった。



「それはそうと、なっちゃん……
お金の方は大丈夫なの?
引越しでも、ずいぶんかかったんじゃない?」

「大丈夫。
あんたはそんなこと心配しなくて良いの!」

きっとそれはなっちゃんの強がりだと思った。
なっちゃんは、けっこう稼いでたみたいだけど、それにしたって半年以上も遊んでて、しかも、僕の生活のこともも全部面倒をみてたんだから。
それを考えると気持ちは焦るものの、以前の職場にはもうとても戻れない……
かといって、また今から職を探すというのも、今の僕にはハードルが高い。



「……優一。
焦ることはないよ。
あんたは、とても深い傷を負ったんだから……
でも、傷は必ず治るから。
治らない傷なんてないんだからね。
心配ないよ。ゆっくり治していこうよ。」

なっちゃんの思いがけない言葉が胸に染み込んだ。



「……なっちゃん……過保護過ぎだよ。」

「過保護?良いじゃない!
あんたは、それだけ大切にされる権利があるんだよ!
あんな辛い想いをしたんだから……」

我慢してた涙が、ついにこぼれた。
こんなことで泣くなんて、男としては恥ずかしいことだけど、それでも涙は止まらなかった。
この姉の深く大きな包容力に、僕はあらためて救われた。