幸せの花が咲く町で





「よし!決めた!」


ある日の夕食時に、なっちゃんが唐突に声を上げた。



「……ママ……何を決めたの?」

「こた、お引越しするよ!
お庭のある広いお家にお引越しするよ!」

「なっちゃん、本気?」

「もちろん!」

「でも、どこに……」

「父さん家だよ。
あ、今はあんたの家だよね。」

「え……」



そうだ……
あの家は、僕が受け継いで……
用事が済んだ後は、一度も行くことはなかった。
いや…僕の頭の中からあの家のことはすっかり抜け落ちて、思い出すこともなかった。



小太郎が眠った後、僕はさっきの話を持ち出した。



「なっちゃん、本当にあそこに住むつもりなの?」

「うん。いろいろあるからね。
それが一番だと思うんだ。
……あんたはいやなの?」

「え……それは……」

正直、行くのはいやだった。
何の思い出もないまるで他人の家のような場所。

それに、あの家の最寄り駅には一番行きたくない。


でも、なっちゃんの話を聞いていると、そうするしかないことがわかった。
僕はうかつにも自分の家の家賃のことをすっかり忘れていた。
この半年余り、なっちゃんは僕の生活の面倒をみるだけじゃなく、家賃も…その他の支払いも全部払ってくれていた。
職場にも出向いてくれたらしい。
僕の知らないところで、なっちゃんはいろんなことを片付けてくれてたんだ。

さらには、隣の人から度々文句を言われていたらしく……
すごく神経質で厄介な奴なんだって言ってたけど、それは僕が暴れたりわめいたりした時のこともあるようだ。
それと、今まで勤めてたところをクビになったとかで……それはきっとこんなに長く休んだせいだと思う。
そんなに迷惑をかけてたことにまるで気付いてなかった僕には、あそこに引っ越すのはいやだなんてとても言えなかった。



「わかった。じゃあ、あそこに引っ越そう。」

「優一…無理してない?
本当にいいの?」

「もちろんだよ。」

僕は自分の気持ちを偽り、愛想笑いを浮かべた。