「……で、今日は何があったわけ??」

「……そのことはまた後で話すよ。
篠宮さん、遅くなったけど、お家の方は大丈夫ですか?」

「え…えぇ…まぁ……」

歯切れの悪い返事……
篠宮さんは主婦なんだから、遅くまで出歩いていて平気なはずはない。



「では、私…このあたりで……」

「どうもありがとうございました。
それと……いろいろと申し訳ありませんでした。」

「い、いえ、私の方こそ……」

篠宮さんが帰ろうとしているのを見て、僕は内心焦っていた。



花のことは来週からはどうなるのか…それを知りたかった。
僕としては、これからも教えてほしいと思う気持ちが強かったけど、今日の醜態を見てしまった以上、篠宮さんはこんな僕とはもう関わりたくないと感じてるかもしれない。
きっと、たいていの人ならそう思うはずだ。
「あいつは気持ちの悪い奴だ」「ちょっとおかしい」
そんな風に思われても仕方がない。



「顔のことは、泣ける韓流ドラマを見たとか言っといたら良いんじゃない?」

「あ、そ、そうですね。」

篠宮さんはすでに玄関の所まで行ってて、なっちゃんとそんな話をしていた。



「あの……篠宮さん、月謝のことなんですが……」

「え?…そんなものはいりません。」

そう言いながら、篠宮さんは何度も頭を振る。



「香織さん、もらうものはもらってくれないと、優一が却って気を遣うから。
なんせ、この人、私と違って神経質で……」

「でも、私…お金をいただくほどのことはお教え出来ませんし……」

「そう言わずに……お願い…!」

篠宮さんの態度を見ていると、やはり僕のことをいやがってるんだと思った。
きっと、もうこれからは来てくれないだろうと諦めかけた時……



「でしたら……
月謝の代わりに私にお料理を教えていただけないでしょうか?」

それは僕が予想もしていなかった言葉だった。



「料理って……
篠宮さん、料理はお上手じゃないですか。」

「そんなことないんです。
最近は全然作ってませんし、私が作れるものは本当に種類が少ないんです。
お菓子なんて全くと言っていいほど作れませんし……」

「じゃあ、お花の練習が終わった後に、夕飯を作りがてらお料理教室にしたら良いんじゃない?
一石二鳥ってやつだね。」

「でも、それじゃあ……」

「私はそうしていただけると助かります。
堤さん、いかがでしょうか?」

「……篠宮さんがそうおっしゃるのなら……」

思いがけず、そういうことで話はまとまった。