「わぁ、今日はなに?
誰か、誕生日の人でもいた?」



なっちゃんは、帰って来るなりキッチンに来て、テーブルに並べられた料理に顔を綻ばせた。



「なっちゃん、早く着替えておいでよ。」

「いいよ、このままで。
さ、早く食べよう!」

バッグをソファーの上に放り出し、なっちゃんはいつもの席に着いた。



いつも、なっちゃんと小太郎が並んで座り、なっちゃんの向かい側に僕が座る。
だから、篠宮さんは当然、僕の隣に座ることになった。



「いただきま~す!」

握り寿司に最初に手を伸ばしたのは、やっぱりなっちゃんだ。
それに倣って、小太郎も卵の寿司に手を伸ばす。



「おいしいね!」

「うん、良いネタ使ってる……
優一、これ、どこで買ったの?」

その質問に、篠宮さんは俯いて肩を震わせる。



「これ、パパが作ったんだよ!」

「えっ!そうなの?」

僕は、小さく頷いた。



「すごいじゃん。
さては私に隠れて寿司屋の修行に行ってたな!」

「近いうちに角刈りにするよ。」

そんな冗談を言いながらも、ふと篠宮さんのことが気にかかった。
男のくせに、働きにも行かずに家事をやって、なに、調子に乗ってるんだ?
……そんな風に思われてるんじゃないかと思うと、僕は急に恥ずかしい気持ちになった。



「それで、今日はなんでこんなに豪勢なの?」

「あ……あぁ、今日まで小太郎のことで篠宮さんには迷惑かけちゃったから……」

「あぁ、なるほど。
本当にそうだよね。
香織さん、お世話になりました。本当にどうもありがとう!」

「いえ……たいしたこともしてないのに、こんなにしていただいてこちらこそどうもありがとうございます。
この数日間、私、本当に楽しくて……」

篠宮さんのその言葉に、なんともいえないもやもやしたものを感じた。
彼女の顔を見ていると、それがただの社交辞令だとは思えない。
接していても、篠宮さんが誠実な人だと言う印象は強いから、嘘ではないと思うのだけど、それが僕を戸惑わせるんだ。
小太郎の世話をするのがそんなに楽しいなんて……



(彼女の家庭はうまくいってないのだろうか?)