「優一、大丈夫?」

「うん、もう大丈夫だよ。
ありがとう。」



しばらくして、僕はようやく落ち着いた。
僕は小太郎が事故に遭いそうになったことを忘れていた……
忘れていたという事実が、また気持ち悪かった。



「……あの時のことを思い出したんだね?」

「……うん。」

「そっか……辛かったね。」

なっちゃんは、また僕の手をぎゅっと握った。



「多分……車が…赤い車だったせいだと思うんだ。」

「仕方ないよ。
あんたはものすごーーく辛い経験をしたんだから。」

「……おかしいよね。
車種は全然違うんだよ。
雨の日でもない。
ただ、赤い車ってことだけで、一瞬にして僕はあの時に引き戻された……」

「そっか……
でも、焦ることないよ。
あんたは、きっと小太郎がはねられるって思って気が動転しちゃったんだよ。
それで、たまたまそれが赤い車だったから、あの時のことを思い出したんだ。
だって、まだ四年だもん。
そんなにすぐに忘れられるようなことじゃないよ。」

「……本当にそう思う?」

なっちゃんはまっすぐに僕の目を見て、深く、深く頷いた。



「誰だってきっとそうだよ。
私だって、そうなったかもしれないよ。
でもね……心配はいらない。
……いつか必ず乗り越えられるから。
何年かかったって良いじゃない。
ゆっくりいこうよ!」

「……それで良いのかな?」

「良いんだよ!
それが良いんだよ!
焦って、余計に傷を開くより、ゆっくりいくのが一番だよ。」



なっちゃんに励まされ、僕は無理に微笑んだ。