「なっちゃん……」

「あ、優一……
具合はどう?」

「うん、ずいぶんましになった。」

「そっか、よかったね。」



ふと見れば、流しも綺麗になっていた。
なっちゃんがするはずもないし、篠宮さんがごはんを食べ終えてから、片付けもして帰ってくれたようだ。



「あ、あんた、お腹すいてる?
香織さんが、おかゆ作っててくれてるよ。」

「え……」

コンロの上には小さな鍋……
あれがおかゆなんだってことはすぐにわかった。



「ちょっと、もらおうかな。
実は、お腹すいてたんだ。」

「あ、良い良い。
今夜は特別に、私が温めてあげよう!」

そう言ってなっちゃんが立ち上がり、おかゆを温めてくれた。



「卵も入れる?」

「うん、そうだね。」

「たまご入れたら、おかゆじゃなくておじやになるんだっけ?」

「……そうだったかな?」

他愛ないことを話しながら、僕は食卓に着いて、おかゆが出てくるのを待った。
いつもなら僕がコンロの前に立って、なっちゃんがこっちだから、なんだか少し新鮮だ。



「はい、お待たせ!
なっちゃんの愛情入りおじやでございます。
特別価格3000万円です。
あ、たまご代50円はサービスしときます。」

わけのわからないことを言うなっちゃんに、僕は思わず失笑する。



優しい味が、お腹の中に流し込まれ、一口ごとに身体が温もっていく。
お椀の中のおじやは、あっという間に空になった。



「おっ、よく食べられました。
えらい、えらい!」

なっちゃんが僕の頭をくしゃくしゃと撫でる。



「なっちゃん!」

僕が睨んでも、なっちゃんは笑ってるだけだった。
その笑顔を見ていると、僕もつい同じように微笑んでしまう。



「明日からはお迎えも行けると思う。」

「そんな無理しないの!
明日、香織さん、お店が休みなんだって。
だから、もう頼んである。」

「え…でも……」

「まぁ、明日一日くらいゆっくりしときなさいって。
病み上がりに無理しちゃだめだよ。
それに、主夫には休みなんてないんだから、休める時には休んどかないと……」