あたしがこんなに動揺しているっていうのに、高橋の表情筋は相変わらずぴくりとも動かない。
「その紙やすりみたいな手のひらでちんこ触られるのなんて、男にとっちゃ拷問ですよ。三次元のちんこいじりたいなら、次に彼氏が出来る前に手荒れどうにかしてください」
「……え、それってもしかして」
やだ、ちょっと。
可愛げのない高橋が、わざわざハンドクリームをくれたり、そんな事まで気にしてくるなんて。
これってあたしの手荒れが治ったら俺のちんこ触ってくださいって遠回しのアピールじゃないのこれ。
やっぱり高橋ってあたしの事……。
「あ。いくら三次元のちんこに飢えてるからって、俺の事狙わないでくださいね。残念ですけど戸田さんみたいな気の強い女、本当に俺のタイプじゃないんで」
「…………」
「じゃ、お先でーす」
「…………」
なにが俺のタイプじゃないだ。
こっちだってあんたみたいに可愛くない男はイヤだっての!
お前なんて一生勃たなくなってしまえ!
役立たずになってしまえ!
さっさとあたしに背を向けて歩いていくオレンジ色の後姿に呪いの言葉を吐きながら、ばったりとデスクにつっぷした。
……もうやだ。おうちに帰りたい。
おでこをデスクにこすり付けたまま両手で顔を覆うと、さっきはささくれが頬にあたって痛いくらいガサガサだった手のひらが、今は少しだけしっとりと潤ってるのに気が付いた。
(あ。さっきのハンドクリームのにおいだ)
自分の手のひらからふわりと漂った、優しい花の香り。
なんだかくやしいけど、たったそれだけの事で、少しだけ元気になった気がした。
【深夜残業の攻略本 END】


