「キング・シェパードのラズだ」
「ラズさん!」
「僕はラズと同格か……」
勘弁願うことではあるので、すぐにでも呼び捨てにしてもらう。
呼び方も定着したところだが、女は何か言いたげにリヒルトを見ていた。
いくら人付き合いに乏しくとも、さすがに察する。
「名前は?」
「トトです!トト・グランシエルです!」
グランシエルの名は、契約している吸血鬼の家名。散々なことをされた一族の名を名乗ることに、女ーートトは誇らしげでいた。
吸血鬼の証明は牙だけだと思ったが、一族の中にいることでも立証される。ーーどんな扱いを受けたとしても。
醜いアヒルの子は最後、同族と出会えたからこそ幸せになった。
けれども、混血たるトトの幸せは、いったいどこにーー
「望んで産まれたとしても、祝福されなければ同じこと、か……」
リヒルトの呟きに、首を傾げるトト。
話す気はないリヒルトは、藁を集めるフォークをトトに渡した。
これで掃除をと、意気込むトトに首を振る。
「ここはいいから、出てって」
ガーンッとショックを受けるトトに構わず、続ける。
「外で案山子(カカシ)にでもなっていて。カラスがよく、羊たちにイタズラするから」
ラズ一匹のみいれば事足りる仕事だが、トトに掃除の作業をやらせれば、逆に時間がかかると判断した。
吸血鬼ならば、人間以上の身体能力ーー大人一人程度担げる腕力あってもいいが、鉄製のフォークを持っただけでもふらつくあたり、トトの腕力は人間のそれと変わりない。
力仕事には向いていないのであれば、別のことを。要は厄介払い。
しかして当人は、そうとは知らずに気合いを入れ始める。
「頑張ります!」
そんな姿を直視出来ない自身がいた。


