春なんか、嫌いだ。


眠気漂う午後一番の授業。


北村榛名(きたむらはるな)は悪態をついた。勿論、心の中で。


手元に指した光に釣られて目をやると、窓の外には桜色の花びらがひとつ、ふたつと落ちてゆく。


今年は冬が長かった。


例年以上の降雪量、それから朝の冷え込みもこの頃まで厳しかった。


だから5月に片足を踏み入れた状態でも、こうして桜の色は鮮やかだったのだ。


春が来た。


北の地方の人間にとっては一瞬に感じられる季節。


それでも榛名にとっては、異常に長く感じられる季節だった。


つう、と伝った感覚に、ブレザーのポケットに手を伸ばす。


ちり紙を広げたら2枚に重ねて、なるべく音を立てずに鼻をかむ。


それでもすぐに同じ感覚がやってきて、これが余計に感情を苛立たせる。


この時期特有の現象に悩まされる人も多かろう。


榛名も同じ様に溜息をつくと、これが悪い方向に転がってしまった。



「そんなに俺の授業が退屈か」