腹の痛みがひいてきたぞ。手を当てると楽だ。
そう腹に手を当てて苦痛に耐える龍二。
手当てとは、文字の通り手を痛む患部に当てる行為。
そして痛みが和らぐ。
人間の手からは気が出ている。
その気が痛みを和らげる。
そして朝の9時を回ったところでドスドスと大きな足音が聞こえた。
「誰だ。相撲取りでも客にいるのだろうか?」
たまには龍二も面白い事を考えるらしい。
相撲取りならよいが、歩いているのは化物である。
「ジョン。ハウス!」
ドダダダダ。床が抜けるくらいの振動があり、凄まじい気配が消えた。
「あの子が勝手に檻を破るなんて最近は大人になったと思っていたのに」
ジョンは化物。あだ名は化物。人間であった時は。
「あら、ゴンザレス。ジョンとケンカしなかった?」
「オラは隠れていたダヨ。ジョンは強いから。オラは小さくて弱いだから」
「そう。怪我が無ければいいわ。その食事は私の?」
と龍二の部屋の前で話し込む二人の男女。
「もう、お嬢の部屋に運んだだよ。これは新しくここに来た奴の食事ですだよ」
「そう……可哀想に。ゴンザレスご苦労様です。さようなら」
品の良い女性は優雅な足取りで歩いて消え、残った男が龍二の部屋の扉を叩いた。
いや、叩き壊した。
「な……扉が……」
龍二の顔が恐怖で凍る。
何が小さいだ? ボーリングの球のように大きな拳だ。ジョンとは一体?
龍二は人生で初めての絶望を味わっていた。
今まで味わったどんな料理よりも苦くそしておぞましかっただろう。

