ほとんどぼんやりとした輪郭だけのアクアの指が、俺の頬に伸びる。


「それじゃあ、翔瑚」


笑顔だった。
死んでも忘れられないぐらい、無色なのに鮮やかな、うつくしい笑顔だった。

涙が輪郭を濡らす。


「――またね!」


ぱちん、と小さな音がして、アクアの輪郭が消えた。
そこには代わりに、泡の粒が浮かんでいた。真珠の粒ぐらいの大きさで、虹色の輝きを帯びている。

泡粒は目の前で揺れていたかと思うと、弱まった風にふわりと乗った。
自由にくるくるとおどりながら遠ざかってゆく。


泡は海の方へ吸い寄せられるように遠ざかって行った。

小さな輝きを足が追う。波の感触があって、止まった。

光の粒みたいになってどんどん遠く、小さくなる。


「……また」


太陽の白い光。虹色の光の粒。


「また、会おう……!」


小さな粒は、一瞬瑠璃色に光って瞬いた。

それを見るのは初めてではなかった。
島に来た日。列車から見えたあの輝き。


俺たちは、自分たちが気づいた時よりずっとずっと前から出会っていた。

そしてきっと。

ずっとずっと先になってから、また出会うのだ。


アクアの命を奪った真珠がきっとそれを叶えてくれる。

限られた今の代わりに、限りなく広がる未来を。




光の粒が水平線と重なって光った。

この夏、彼女が存在していた証。


それが空と海の間を進んでいって、完全に見えなくなってしまうまで、俺は白い光と向き合っていた。