愛してる。とか言わないで

「莉子…」



駅近くの路地裏に座り込んでいる私の方へ、楓は息を切らして駆け寄ってきた。


「楓…」



楓は、自分がかぶっていた帽子を私にかぶせた。



電話をしてからそんなに経っていない。

楓がどんなに急いで来てくれたのか、よくわかった。


「大丈夫か?とにかく…行こう」



楓の少し大きな帽子は私の泣き顔をしっかり隠してくれた。



たどり着いたのは、見慣れた楓の部屋。



ドアを開けた瞬間、冷たい空気に包まれた。



冷房がよく効いてる。



小さな心遣いが嬉しい。



「はい…」



よく冷やされたペットボトルを渡された。



私はそれを目にあてた。



楓は静かに座っている。



「今日…海行かなかった…」


「そっか…」


楓は静かに相槌をうつ。



「友也来なかった…けど…近くを女の人と歩いてた…」


涙で、言葉に詰まる。


あの時の光景を思い出すと胸が押し潰されそうになった。



「きれいな人で…さ、年上で…たぶん…元カノじゃないかと…思ったの…」