「そういやお前どこから来たの?」



「東京。」



「ふーん。じゃあ都会っ子か。」



「そうでもないけどね。別に渋谷とか新宿が近いわけでもないし。」






思えば、彼が私になにか質問してきたのはこれが初めてのことで。





こんな小さなことだけど、彼が私に興味を持ってくれたのかと思うとやはり嬉しい。







「それでも東京は東京だろ。じゃあ都会っ子にはこの辺は物足りないな。」



「そんなことないよ。」







珍しく座ったまましていた会話の途中で草むらにゴロンと寝転がる。








「そりゃ東京も好きだけど、私はこっちの方が好き。なにもしない時間が幸せに感じる場所だもん。」








顔のすぐ横にある草をいじりながら答えた。








実際私はこの土地が好きだ。









東京にいたころは、うるさいとしか思わなかったセミの声も夏の象徴だよな、と受け止められるようになったし





田んぼばかりの通り道も、緑が多くて癒されるなと思う。







なによりこの河原。






ここは文字通り私のオアシスになっている。









「なんか、なにもかもぜーんぶ忘れるってこんな感覚かなって感じ!」








そう言って笑うと彼もふっと笑った。









「先週よりずっと笑うようになったな。」








そういう彼も先週よりずっと優しく笑う。








「そんな仏頂面だった?」





「いや、笑ってたよ。笑ってたけど胡散臭かった。仮面みたいな感じ。」



「あー。確かにその通りだわ。自然に笑う方法忘れてたんだよね。愛想笑いのほうが先に出ちゃう。」




「まあその気持ちはわかるけど。」








そう言うと彼もゴロンと寝転がった。