だが、カイが今リュティアを想ってぼーっとしているのは、二人の距離が近いからではない。

遠いからだ。

わざわざ二つのベッドを部屋の隅と隅に移動してまでリュティアはカイと離れて眠りたがった。これは今までにないことだった。

エリアンヌの一件以来、二人の間で何かが変わったことを意味していた。それはカイが昔から望んできたような変化なのだろうか。

そのことが気になって、もしかしてと期待が高まって、カイは悶々としていた。

しかし穴があくほど秋桜を見つめ続けるうちに気がついた。この世界で秋桜の花ことばは“友情”…。

カイはがっくりと肩を落として落ち込んだ。

その拍子に、カイのいるベッドから見て部屋の反対の隅、ベッドで膝を抱えるリュティアが、やけに大人しいことに気がつく。

そういえばリュティアが大人しいのは今に限ったことではなかった。アクスが去って以来あまりしゃべらず、いつも何かを考えるようにうつむき、大人しいのだ。

心配のあまりそうなっているのだろう。カイは優しい気持ちで声をかけた。

「リュー、そんなに心配するな。確かに…アクスさんがこの町で身ぐるみはがれて無一文らしいというのは、心配だが…ただの噂じゃないか」

「心配……」

リュティアは抱えていた膝を崩すと、ゆっくりと顔を上げた。

「確かに、すごく心配です…でも、少し違います。カイ」

薄紫の双眸がまっすぐにカイを射ぬいた。

「私は、怒っているのです」

その美しい瞳に燃え上がる感情は紛れもなく怒りだった。

―大人しいのは、その華奢な体全体で、怒っているからだったのだ。

いつも温和なリュティアには滅多にないことに、カイは驚いて言葉を失った。