迫りくる魔月の群れの先頭、見憶えのある巨人に向かって、フューリィは声を張り上げた。

「止まれ!!」

一歩も引かないそのまなざしの気迫におされたのだろうか、のしのしと先頭を走っていた巨人ゴーグは立ち止まった。そして首をかしげた。

「あれ? なんか見たことのある坊主だど。小さいけどうまそうだ。俺は運がいいど。カードの勝負で勝ってアニキたちの中で俺だけ邪闇巨石狩りに来れただけでなく、こんなうまそうな肉も食えるんだからなぁ」

あっというまにフューリィは赤い角を生やした大小様々な獣たちに取り囲まれた。

彼らは獰猛な唸り声をあげながら、今にもフューリィに飛びかからんばかりに低い姿勢をとる。それでも襲って来ないのは主―間違いなくこの巨人―の合図を待っているのだろう。

フューリィは自分があまり怖がっていないと思っていた。だが、それに反して足はがくがくと震えた。

「お前たちの狙いは、この石だろう!」

フューリィは懐から邪闇巨石を取り出すと頭上高く掲げた。この石はリュティアによって封印を施されたあと、フューリィの家に保管してあったものだ。

「言っておくけど村の人たちはもう避難して村にはいない! お前たちが村を襲う理由はだからこれしかないはずだ! こんな石、くれてやる! さっさと立ち去れ!」

フューリィは邪闇巨石をゴーグに向かって勢いよく投げつけた。

これは賭けだった。この石を与えることで何が起こるのかフューリィは知らなかったからだ。

それでも村を守れる唯一の可能性にすがるにはこうするしかなかった。