彼の癖っ毛を揺らす荒ぶる風も、流れ続ける透明な涙を乾かすことはない。彼のまっすぐな視線の先には土埃が立ち、たくさんの黒い影が迫って来ている。

ふと今、フューリィにもわかったような気がした。

なぜ、セラフィムがこの村を愛したか。

なぜ、自分を妖怪扱いする村人たちすらも愛したのか。

すべてはつながっているからだったのだ。

愛も憎しみも、喜びも悲しみも、戦いも平和も。表裏一体で、つながっている。そうでなくしてどうして今、笑えるだろう。

こんなに悲しいのに、もうすぐセラフィムのところへ行けるかもしれない、きっとその静かな喜びが自分を微笑ませているのだ。

セラフィムは今の自分のように相反するすべてのものを、すべてひっくるめて愛したのだ。

今ならわかる―フューリィも、愛していたのだ。

冷たいだけだった村人たちのことも、厳しいだけだったこの村そのもののことも、ずっと、愛していた。

ずっと、心が弱くて、傷つくことから自分を守りたくて、愛する者から冷たくされる苦しみを受け止められなくて、目をそらしてきただけだった。

「セラフィム様」

今、愛しい人の名を呼ぶ時、切ないほどにすべてへの愛しさがつきあげてくる。

セラフィムが愛したすべてが、セラフィムが好きだと言ってくれた自分をつくりあげてきたすべてが―この世界が、村が、人が、愛しい。

―セラフィム様。

―僕の心は、相変わらず弱いけれど。こんなに、泣き虫なままだけれど。それでも。

「――約束を、守るよ」

―愛するものを守れる力があると、信じたいから。

前をにらみつける双眸、華奢な体が闘気を放つ。

この門は絶対に通さない。

―たとえ死んでも。