あの日あの時...あの場所で






ざわざわ、わさわさ、事態は動き出す。


ヤンキー達が、道を開けていく。


「咲留さん」

「二階堂さん」

なんて声が聞こえてくる。


お!やっと登場だ。

なんて、呑気に思ってたら、ヤンキーの作った道から、物凄い勢いで飛び出して来た男が私に飛び付いてきたんだ。



「瑠樹ぃ。可愛い瑠樹ぃ」

叫びながら頬擦りするのは止めてほしい。


ほら、皆、目が点になってるしさ。



私に抱き着いてギュッギュッと抱き締める咲留を、ポカンと間抜けな顔で見てらっしゃいますよ?皆さん。


その気持ち、分からなくもないけど。


だって、普段の咲留は口数の少い硬派な男だと評判だからね。


こんな失態は目を疑うんだと思うよ。





「どうして連絡しなかった?こんな危ない所に一人で来ちゃ駄目だろ?可愛い瑠樹が襲われたら兄ちゃん、そいつを殺しちゃうぞ」

可愛く怖いこと言うのを止めてほしい。



私を腕の中に閉じ込めたまま、優しい瞳で見下ろす咲留は三年前よりも大人の男になっていた。


緩くパーマのかかった焦げ茶の髪。

ぱっちり二重に、鼻筋の通った美形


うちの兄は、妹の私が言うのもなんだけど、イケメンの分類に入ると思う。




「ふっ...咲留、ただいま」

一番言いたかった言葉を口にして微笑んだ。


「ああ、お帰り、瑠樹」

優しい笑みで返してくれた咲留は、私を縦抱きに抱えあげる。


おい!なにする。

子供みたいに抱っこするんじゃないわよ。



180センチは越えてる咲留にとったら、150センチの私は子供みたいに見えるけども。

これはない。



「咲留、下ろしてよ」

咲留の腕をバシバシ叩く。


「嫌だ」


「嫌だじゃないし」


「無理」


「こっちが無理だし」

私の抗議をもろともせずに、歩き出す咲留。


ほんと、勘弁してほしい。


晒し者みたいに、ヤンキー達に見られてるじゃん。


興味津々に、不思議なものを見るような視線を送ってくる。

勘弁して。




「お、おい!咲留」

背後からかかった声に、

「ああ"?」

と不機嫌に顔だけ振り返る咲留。



「...そ、その子...」

庄谷健がそう聞こうとしたら、


「あ、健てめぇ、俺の大事な瑠樹に触れたよな?」

と盤若のような顔で低い声で唸った咲留。


ヤンキー達も殺気に当てられて青ざめてるし。



咲留、どんだけ怖がられてんのよ。





「...ひ、ひぃ...違う違う、誤解だから」

何故かビビってその場に正座した庄谷健は、必死に言い訳してる。


咲留から放出される殺気が周囲の温度を2度は下げたと思う。



「こいつに触って良いのは俺だけだ、覚えとけ。」

なんて捨て台詞を吐いて背を向けて歩き出す咲留。


いやいや...誤解を生むような言い方は止めてほしい。


早くもシスコン全開の咲留。




「さ、行こうな?」

蕩けるような顔で私を見る咲留。


「あ、ダメだよ。鞄置いてけない」

そうだよ、大事な荷物をおいてけないぞ。


「おう、そうだな」

そう言って頷くと、咲留は誰かを探すように周囲を見渡す。



「昂( ノボル)、瑠樹の鞄頼んでも良いか?」

咲留は不意に立ち止まると、こちらを見ていたヤンキーの一人に声をかけた。


「は、はい、任せてください」

嬉しそうに頷いた彼が昂君なのね。