あの日あの時...あの場所で








薄汚れた俺の全てを洗い流せたら...と何度思った事だろうか?


だけど、シャワーのお湯なんかじゃどうにもならねぇほど、俺は薄汚れちまってる。


ボディソープをつけて体を隈無く洗っても、染み付いた汚れは落ちてくれねぇ。


頭からシャワーを浴びれば、髪を伝ってシトシトと雨粒のように落ちていく。



「俺は腐ってんな?」

ハハハ...乾いた笑いが漏れた。


無邪気に笑えていた懐かしい頃が不意に脳裏に浮かぶ。


あの頃は純粋に笑い合えてた。

あの頃は純粋にあいつだけを思ってた。



「クソッ」

握った拳を壁に打ち付けた。


俺が切ったのに。

俺が遠ざけたのに。


あいつを欲しいと心が叫ぶんだ。


俺はそんな資格なんてとうの昔に無くしたと言うのに。

未練がましく忘れらんねぇ俺は...アホだ。


ガンガンと壁を殴り続ければ、拳から赤い血が滴り落ちてきた。


シャワーから出るお湯に薄められたそれは、人間の持つ赤。


黒に染まった俺の中にある赤は.....黒に染まりきれていない。


もう引き返せない所まで来ているのに、流れ落ちる赤を見ていたら、戻れるんじゃないかと、都合のいい妄想をしてしまう。


戻れる訳はねぇ。


自ら手を離した俺は、その手を再び掴む手段を持たないのだ。


それなのに...過去の思い出にしがみつく俺は...愚かだな?


漏れでた自嘲的な笑み。



血だらけになった拳を開いてみた。

この手では、触れられない。


どんなに欲しても。


不特定多数の女に触れたこの手は罪深いんだ。


笑顔を見ることも。

側に居ることも。

この目で見つめることも。


俺には許されない事なんだ。


ズキンスキンと痛む胸。


欲しいモノは決まっているのに、絶対に望めない。


「会いてぇ」

何度こんな風に口にしただろうか?

水音掻き消された俺の声は、誰にも届く事はない。