あの日あの時...あの場所で







楓はかなりの寝坊助さんらしい。


「学校に遅れて来ないのが奇跡ね?」

と笑えば、


「学校の日はおばさんが必死に起こしてるのよ」

と梅が言う。



「それも中々起きないから大変らしくて、学校が休みの日ぐらいは自分で起きなさいって言われてるらしいの」

桃子がさらに説明してくれる。


「そりゃ、おばさんも休みたいわよね」

と納得する梅。


「確かに毎日大変な思いしてるなら、休みは起こしたくないよね」

楓んちのおばさんの気持ちが分かる気がする。



「瑠樹は独り暮らしでしょ?きちんと起きられるから凄いわよね。爪の垢でも煎じて飲ませましょうか?」

なんて、桃子に言う梅。


本当にやりそうだから怖い。


梅は結構、有言実行だもの。




「私は一人で起きる癖がついてるしね?それに咲留が住み着いちゃってるから起こさなきゃ駄目だしね」

フフフと笑った。
 

ママと二人暮らしの時から一人で起きる癖がついてたから。


咲留の家に引き取られてからでも、いつでも自立できるようにと必死だった。

黒い何かが胸の奥に広がる。


ああ、こんな場所で駄目だと思うに上手く押さえ込めない。



「瑠樹、そろそろ行くか?」

豪はいつでも私の気持ちを察してくれる。


「...あ、うん」

側にある豪の温もりを思い出す。


「そうね、そろそろ行きましょう」

梅が立ち上がる。

「可愛い水着選ぼうね?」

桃子も笑顔で立ち上がってこちらを見る。


良かった、二人には豪のおかげで私の中に潜む黒には気付かれていない。


時折、制御出来なくなる黒が怖い。


私の中に潜むそれは、時々暴れだすんだ。


私の意思とは無関係に。



立ち上がった豪に手を引かれて歩き出す。


豪、ありがとう。

彼の背中に聞こえないお礼を伝えた。




「直ぐに追い付きますから、先に行っておいてください」

テーブルの上にあった伝票を手に取ると、そそくさと一人レジに向かう夏樹。


「あ、私達のお金...」

慌てて財布を出そうとする梅と桃子。


「女の子は黙って奢られとき」

と大翔が言う。


「私達まで良いの?」

と遠慮がちに口にした梅に、


「咲留さんの奢りだ。気にすんな」

と豪が振り返って告げた。


あらら、咲留ってばいつのまに。


良くできた兄だこと。