あの日あの時...あの場所で







「瑠樹を頼めるか?」

私の隣に居た梅に声をかけた豪。


「えっ?」

と戸惑った梅に、


「煙草」

親指ですぐ近くの喫煙所を指した豪。


「良いわよ」

梅は頷く。


豪は目で合図して、来たばかりの夏樹を引き連れて喫煙所に向かう。


ちなみに、大翔は煙草を吸わない。



豪、煙草を吸いたいの我慢してたんだね?


私の近くでは極力吸わないようにしてくれてる。

別に構わないと言ったんだけど、豪なりのケジメらしい。



「本当、彼は瑠樹を大切にしてるわね」

梅にそう言われて、


「うん。でも、あんな見える距離に行くだけなのに、心配しすぎだよね?」

と笑った。


「例え見える距離でも、こんなに可愛いな瑠樹を一人には出来ないのよ」

梅はクスクス笑う。


私達の目線の先には、喫煙所で煙草をふかしながらこちらを警戒する豪の姿。

そんな見なくても大丈夫だってば!



「森岡さんがあんなに甘い人だとは思わなかったよね?女嫌いで有名だったのに」

桃子が真剣な顔で語る。


「そうね?でも、瑠樹が相手なら甘くなるもの分からなくも無いわよね。しかし、今日は暑いわね...」

梅はそう言うと照りつける太陽をチラッと見上げて長い黒髪をかきあげた。


本当に今日の日射しはきついよね。



「甘やかして欲しいんやったら、俺が甘やかすで?桃ちゃん」

あ、忘れてた大翔の存在。


「いえ、結構です」

大人しい桃子も、大翔には毅然とした態度を示す。


こんなやり取りはよく学校で見るのだ。



「なんで?ええやん、俺優しいで?」


「優しくても結構です」


「桃ちゃん、つれないなぁ」

唇を尖らせる大翔。


「ずっと言ってますが、私は彼氏一人で十分なので、大翔さんのお相手は出来ません」

ほら、言われた。


いつも最後はこれを言われて、引き下がるんだよね、大翔。


「...ちぇっ」

と拗ねる大翔を見て思う、分かってるんだから、桃子に迫らなきゃ良いのに。


何故か大翔は桃子をやたらと構う。

タイプなのだろうか?

タラシなので、大翔の言葉は本気で受け取って貰えないのだけどね。


すっかり慣れた光景なので、私達は特に干渉しない。



友達になって次の日に、三人の色んな話を聞かせてもらったので、彼氏が居ることは知ってるの。


桃子には別の学校に通う幼馴染みの彼が居て、梅にも社会人の彼氏が居る。


楓はつい最近、年下の彼と別れたばかりらしい。


女と恋話が出来る日が来るとは思わなかった。



恋をしていない私は幸せそうに彼の話をする二人を羨ましいと思った。